キネマの哀愁 | 使いみちのない風景

キネマの哀愁

人は一生の内に4つ、大きな過ちを犯す。

という大意があるように私には感じられた。

雄大な森と、湖と静寂に包まれた山寺で

老僧と暮らす一人の少年。

幼年期に業を知らず、

思春期には欲望と執着を覚え、

青年期には人を傷つけ、

壮年期に業を知る(不可逆的な意味では過ちとも言えるとおもう)

しかしどんな傷も苦悩も煩悶も、人間のものである限り、

やり直すことは出来ないからこそ美しいのだ。

ひとの一生の、

青春 朱夏 白秋 玄冬

「春夏秋冬そして春」

色鮮やかな東洋画のように澄んだ景色。

その中で四季の移ろいを人の人生と重ね合わせていく。

その旅路はとても非現実だけれど、かみひとえに現実的だ。

これは三軒茶屋の古い小さな映画館で見た。

「天国への手紙」と続けて観たのだけど、

少し前の映画を2本立てで流すような

古い映画館であるがゆえにシートは硬く、

見終わったころはすっかりお尻が痛かったけれどそれすらも

醍醐味みたいに思えた。

映画館にも一生、というものがあるなら

こちらはもう玄冬だろうか?

ロビーにあるレトロともなんとも言えないような灰皿や

壊れかけた券売機、日が入らないせいかすこしかび臭い雰囲気も、

それでいて高い天井も居心地がいい。

こういう所がすごく賑わっていた時代もあったんだろうな、と想像する。

そんな時代の名残だけ残した映画館で、現代の映画を見るのは、

言いようのない不思議な気分だ。

アクオスで昭和の漫才番組とかを観ているような感じだろうか。

いやいや

デジタルハイビジョンの横長フラット大画面から

のいる・こいるの掛け合いなんかが流れてきたら

ノスタルジーもなにもあったものじゃないだろうな。

融合すればいいってわけでもないようだ。

「春夏秋冬そして春」も「天国への手紙」も、この映画館で流されることに

旨く溶けていた。

おとうちゃん、知ってた?

三茶にもあるんだよ!

(しかも向かいにもう一軒)


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